無人島からの脱出サバイバル小説「漂流」について熱く語る
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吉村昭の長編ドキュメンタリー小説で「漂流」という作品がありまして。
これがもうね、劇的に面白いわけです。
草木もほとんど生えない火山島。もちろん、湧き水も出ない。
そんな絶海の孤島に漂着し12年ものあいだ生き延び、最後は自力で日本まで戻ってきた男の話です。
救助されたんじゃなくて、自力で生還だからね。激ヤバ。
「漂流」について熱く語りたいが、ネタバレは避けたい。注目ポイントを挙げていきましょうか。
まずね、1番のポイントは、これがゴリゴリの実話だということです。
作者が物語上、都合良く、エキサイティングなエピソードを配置し、面白可笑しくお膳立てした冒険活劇ではないということです。
実際に当時実在した人間たちが、文字通り命がけで経験したサバイバル生活が描かれているのです。
だからこそ、メチャクチャ面白い。興味深い。
リアル・ガチ。
人間は、あっけなくバタバタと死んでいくし、
都合よくお宝アイテムがゲットできるわけでもない。
これはゲームでも、ラノベ(ライトノベル)でもない。
異世界ではなく現実の話です。
第2の注目ポイントは、無人島の初期設定が無理ゲーすぎる件ね。
ふつうさ、無人島って言うと、ヤシの木とか生えててさ。
なんだかんだ、食えそうな木の実がなってたりするイメージあるじゃん?
あるいは島のどこかに川が流れててさ、飲み水を確保できたりするじゃないですか。
そうじゃないと、ソッコー、主人公たち、死んじゃうから。
ところが。
「漂流」で主人公たちが流れ着いた島は、いわゆる火山島でさ。
まぁ言ってみれば、冷えた溶岩のかたまりなワケよ。
「土」っていうよりも「石」なんだよね。
超~デカい岩みたいなもんなワケよ。
当然、植物もほとんど生えてない。
せいぜい、コケとか、背の低い貧相な草がちょびっとあるだけ。
植物が豊富なら、木や、葉っぱや、枝(繊維)などを利用して、家や衣服を作ることも可能だけど、この島には、植物がほぼ、ない。
あと、致命的なことに、湧き水も出ないし、川も流れていない。
飲み水の確保が難しすぎる。
これさぁ、初期設定、キツすぎじゃね?
大抵の人間は、島に漂着しても、どっちみち数日で死んじゃうと思うんだよね。
「やったー!島だ~!助かった~!!」
って喜んで上陸した後、顔面蒼白よ。
どう考えても地獄。
では、主人公たちは、このピンチをどうやって切り抜けたのか?
これ重要な見どころのひとつです。
第3の注目ポイントは、生死を分けた分岐点
いくつもの危機を乗り越えて、生活スタイルも確立されて、ある程度インフラが整った後も、全員が生き延びることができたわけじゃないんですよね~。
日本に帰りつくまで、粘り切れなかった人々もいたワケよ。
どこかのタイミングで、諦めちゃった人もいたワケよ。
人間は、食べ物と飲み水を確保しただけでは、生きていけないんよね~。
まぁ、言ってみればモチベーションよ。
生きる気力。
生きる気力を失った人が、その結果として生活が不規則になり、健康を損ね、死んでいくこともあるわけ。
ネタバレしたくないので、詳しくは書かないけど、例えばさ。
学校でいじめられたとか、仕事をクビになったとか、女に騙されたとか、何らかの理由で、人生に絶望して、部屋にひきこもってる人、いると思う。
生きる意味を見失って、途方に暮れて、自暴自棄になって。
そうやって、カーテンを閉め切って閉じこもっている民(たみ)に告ぐ。
部屋から出ろ。歩け。直射日光を浴びろ。
今以上の深みにハマりたくなければ、病気になりたくなければ、
太陽の下、ウォーキングしたまえ。
ここが、生きるか死ぬかの分岐点だったりしますんでね。
詳しくは、吉村昭 著「漂流」を読んでみてネ~。
第4の注目ポイントは、最終的に「自力」で島を脱出したこと。
これ、すごいよね。
最初の頃は、いつか誰かが助けてくれるはずだ、って思って、沖の方ばかり見ていたわけよ。
大きな船が島の近くを通りすぎるんじゃないか?って期待してさ。
ところが、何日待とうが、何十日待とうが、何百日待とうが、何年待とうが、一向に救助してもらえそうな気配がない。
船の影をちらりとも見ないまま、時が過ぎていく。
こうなりゃ、自分の力で脱出するしかない。
さて、どうやって脱出するか?
そもそも、脱出なんて可能なのか?
これもある意味、最大の山場かな~。
壮大なスペクタクルです。
結局、遭難から帰還までに、12年くらいかかってるからね。
日本の本土に戻ってくるまでに、干支が一周してる。
すごい話だよ。気が遠くなる。
「漂流」を読んでおけば、船で難破して無人島に流れ着いても、なんとか生き延びることが可能なのではないか?
まぁ分かりませんけどね、最後は「生きる気力」の問題になってくると思うんで。
全てはその人次第。
それでも「サバイバル術」には、一通り目を通しておいた方が、いざという時に生き延びる確率はぐんと高くなるような気がします。
吉村昭の「漂流」は、物語としても一級品ですし、サバイバル入門(心構え編)としても、悪くありません。(個人差があります)