とある田舎のカレー屋で危うく命を落としそうになったことがあります。
あたり一面、畑、畑、畑…。
畑の中にポツンと佇む、いわゆる「隠れ家」的なカレー屋での出来事です…。
「田舎には特有の素朴さ、フレンドリーさがある」…そんな田舎への先入観が招いた悲劇。
以前、何かで知った話なんですが、あれは何だったかな…。
テレビで観たんだったか、ネットで観たんだったか…。
高齢者が多く住む町に存在する、某ファーストフード店では、
メニューの表示がとても分かり易く、
「フライドポテト」のところに、「おいもさん」って書いてあるらしいんですよね。
メニュー表の想像図。
横文字っつーかさ、カタカナ文字っつーか、舶来品的な表現って、年老いたおじいちゃんおばあちゃんには分かりにくい場合ってあるじゃないですか。
だったら、
「フライドポテト」などと、しゃれた言い方しないで、もっと日本人に分かり易く、しかも「食材に対する親しみ」さえ込めた「おいもさん」っていう言い方のほうが、いいんじゃねぇか?って話ですよね。
これなら、じいさんばあさんも、一発で理解してくれますし。
「あぁ、これはイモなんだな」って。
表示が
「イモ」とか「ジャガイモ」とかじゃないってのがまた、風情がありますよね。
「おいもさん」ですから。
さん付けで呼んでますからね。
もう、若干「先輩」な感じになってる。
おいも先輩ですよ。
今どき、ジャニーズの若手とかでも「しげるくん(城島茂)」とか呼ぶじゃないですか。
先輩に対してでも、もはや、さん付けじゃなくて、くん付けが主流になってますよ。
ジャニーズ的に言えば
「おいもくん」ってことになるわけです。
そんなご時世に、あえての「おいもさん」。
これ、
すごく考えさせられますよね。
イモって何なんだろう、先輩って何なんだろう、ジャニーズって何なんだろう、いろんなことを考えさせられます。
私はそれ以来、この「おいもエピソード」が、ずっと頭の片隅に残っておりました。
寝ても覚めても、おいもおいもおいも。
・・・・・・・・・
お分かりいただけたでしょうか。
実はまだ、本題に入っておりません。
畑のど真ん中にポツンと佇む一軒の洋風の館…。それが、今回の話の舞台となるカレー屋。
かなり昔の話です。
ある時、私の相方(通称・大福さん)が、じゃらんか、るるぶか、ブブカか、何か旅行雑誌?でチェックして「ココ、行ってみたい!」って言ってきたわけです。
農家の息子が、ヨーロッパかどこかでシェフ的な修行をして腕を磨き、一流になって凱旋帰国、親の所有している広大な畑の真ん中に、小さなレストランを建てちゃいましたよ、みたいな話だったような気がしますが、あんまり覚えておりません。
結局、カレーのおいしいレストランっていうか、ぶっちゃけ「カレー屋」として営業するなら、インドとかバングラデシュに修行に行った方が良かったんじゃないか?っていう気もしますが、まぁ、そのへんは、結果論ですからね。
人生ってのは、どう転ぶか分からんもんです。
え~~と、
そんなこんなで…。
大福さんと私は、その「隠れ家的レストラン」へと足を踏み入れたわけですよ。
そりゃ当然、カレーを注文しますよねぇ、カレーが美味しいっていう、ふれこみですから。
そんでさ、メニューを見たわけよ。
「辛さはどうしますか?」みたいなのあるじゃないですか。
んでね、あんまりハッキリ覚えてないんだけどさ、確か、こんな感じで書いてあったのよ。
「甘い ちょい甘 普通 ちょい辛 辛い」
みたいな感じで。
んでさ、
そのちょうど下に、番号が振ってあったのよ。
「1 2 3 4 5」
みたいな感じで。
甘い ちょい甘 普通 ちょい辛 辛い
1 2 3 4 5
みたいな感じですよ。
でさ、私はとっさに、
「あ、これ、おいもさんパターンだ」
って気づいたんすよね。
田舎特有の、ほのぼのとした優しさ。
野菜へのリスペクトとフレンドリーさを前面に押し出したパターンだ、ってね。
「おいもさん」
と書いて、その下に(フライドポテト)っていう。
この場合、「おいもさん」と「フライドポテト」は同一人物じゃないですか。
フライドポテトの分かりやすい名称が、おいもさん、ってことなんで。
あ~、なるほどね、田舎のレストランは、この感じなんだな、って。
ということはですよ、
メニュー表をもう一回確認してみましょうか。
甘い ちょい甘 普通 ちょい辛 辛い
1 2 3 4 5
これ、
「甘い」=「1」
「ちょっと甘い」=「2」
「普通」=「3」
「ちょっと辛い」=「4」
「辛い」=「5」
ってことですよね。
おじいちゃんおばあちゃんにも分かりやすいように
「1番は、甘いっていう意味ですよ~」っていう、優しさ表記ですよね。
なるほどねぇ~、田舎っていいなぁ、人間っていいなぁ…。
私のやさぐれていた心はすっかり癒され、
「よし、もう一回、頑張って生きていこう、夢を追いかけよう」
そんな気持ちにもなったりならなかったりしたはずなんですが、あんまりハッキリ覚えておりません。
まぁとにかくです、心がほっこりと温かくなった私たちは、お店の人に注文しました。
「カレーください、辛さは5番で」
勘の良い方は、もうすでにお分かりだろうと思いますが、一応、説明。
これねぇ、トラップだったんですよね。罠ですよ、罠。
「おいもさんパターン」じゃなかったんです。
おいもさんパターンだと、
「フライドポテト」の和名が「おいもさん」じゃないですか。
この2行は、イコールで繋がってるわけです。
同じ意味のことを反復しているだけ。
ところが。
畑のカレー屋、あの野郎、
辛さが10段階だったんすよね。
甘い
ちょい甘
普通
ちょい辛
辛い
1
2
3
4
5
ようするに、数字の「5」っていうのは、辛さMAXだったのよ。
当店でお出ししている、限界ギリギリの辛さでございます、的な。
「辛い」より1段階辛いのが数字の「1」って、どう考えてもおかしいだろ。
あ~~、そうか、今になって何か分かった気がする。
我々が「辛さは5番で」って注文した時に、店の人、一瞬、ハトが豆鉄砲食らったような顔して、そのあと、にやりと笑ったんすよね。
口角がね、片方だけ上がったんすよ。(少なくともそんな風に見えた)
あのとき、顔に書いてありましたよ。
「飛んで火にいる夏の虫とは…お前のことだよ!!」
って。
あ~~、まんまとやられた。
騙された。世知辛い世の中ですよ。
辛い、辛い、世知辛い。
辛さMAXのカレーとの闘い。滝のように流れ落ちる汗、口腔内に突き刺さる香辛料。
もうね、意地とプライドですよね。
「すいません、間違えて5番、頼んじゃいました」
とか、言いたくない。
「そうそう、これこれ、もうね、オレ、超~辛党だから。このくらいでちょうどいいのよ」
みたいな顔で、平らげるしかない。
そんでもって、また、店員さんが、お水を持ってこないんだ、これが。多分、わざとだと思うんだけど。
オレは思ったね。
「くそ~、オレは今、試されている!どうする…水…頼むか?頼んだら…負けか?」
躊躇する私を横目に、相方はカレー1口目で間髪入れずに
「すいませーーん!水くださーーーい!!」
と大声で叫ぶ。
店員は、あえて、意図的に、店の奥に引っ込んで出てこない。
籠城作戦だ。
相方の「水くださーい!」の叫び声が、虚しく店内にこだまする。
なんだ。なんなんだ。この地獄絵図は。
私はこの時、初めて知った。
このご時世に、平和な日本で、
「カレーを食べて脱水症状で絶命する」なんてことがあり得るんだなぁ…と。
とりあえず、汗がもう、止まらない止まらない。
滝よ、滝。
あれっ?ナイアガラかな?って間違えるくらい、滝。
うっかり山伏が滝行しにきちゃうくらい、滝。
世界三大瀑布といえば、
ナイアガラの滝、
イグアスの滝、
俺。
それよりも何よりも、まずね、辛いのかどうか分からんのよ、ホントに。
辛いっていうよりも、痛いんだよね。
痛みしか感じない。
味が分からない。
うっかり、カレーの具の中にハリネズミが入っていたとしても気づけない程度には、痛い。
ザックザクですよ。何か鋭利なモノが、口に中に突き刺さっているとしか思えない。
もしかしたら、2匹くらい混入していたのか…?
薄れゆく意識の中、相方の「水ーー!!!」という叫び声だけは確かに聞いたような気がしますが、とにかくね、最終的に、どうやって家まで帰ってきたのか、いまだに思い出せないんですよね…。
※この話は、ちょっとフィクションですが、ほぼガチです。
ポテトと言えば、こんな話も。伝説の過去記事。