さえないおっさんたちが人生の再起をかけて、男子シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)で世界大会を目指す…という内容のコメディ映画です。
フランスでは動員400万人超えの大ヒットだったそうで。
ジャンルで言うと、宇多丸さんが言うところの、いわゆる「負け犬たちのワンスアゲイン」モノですね。
なかなか良かったのでレビューを。
人生八方ふさがりな おっさんたちが水の妖精と化し、加齢に…いや、華麗に舞い踊る!笑いと涙の物語
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』2018(原題『Le Grand Bain』)
7/12(金)公開『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』日本版本予告
サエないおじさんシンクロチームの人生リスタートをかけた感動のヒューマンドラマ
この夏、彼らが日本中のミドルエイジを奮起させる!
2年前からうつ病を患い、会社を退職して引きこもりがちな生活を送っているベルトランはある日、地元の公営プールで「男子シンクロナイズド・スイミングチーム」のメンバー募集を目にする。途端に惹きつけられたベルトランはチーム入りを決意するが、そのメンバーは皆、家庭・仕事・将来になにかしらの不安を抱え、ミッドライフ・クライシス真っただ中のこじらせおじさん集団だった――本国フランスで動員400万人突破の大ヒットを記録し、全世界15の公開地域で累計興収約40億円を打ち出した本作。さらに、2019年セザール賞において最多10部門ノミネートを果たし、質の高さもおりがみつきの逸品が遂に日本公開だ。
本作は、人生の折り返し地点を過ぎ、家庭、仕事、将来 etc で生き悩む8人のおじさんたちが、プールを舞台にイチかバチかの再起に挑む姿を描いたヒューマンドラマ。俳優としても活躍するジル・ルルーシュが初の単独監督を務めた。惜しげもなく「サエないおじさん」を体現したのは、マチュー・アマルリック『潜水服は蝶の夢を見る』(07)、ギョーム・カネ『ザ・ビーチ』(00)、ブノワ・ポールヴールド『チャップリンからの贈り物』(15)、ジャン=ユーグ・アングラード『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(86)などヨーロッパのトップ俳優たち。彼らが裸一貫で魅せる〝不格好な人間臭さ″は、同じ時代を生きるすべてのミドルエイジにこの夏、圧倒的な奮起をもたらしてくれるに違いない。
※昔は「シンクロナイズドスイミング」と呼ばれていましたが、最近は「アーティスティックスイミング」と呼ぶみたいです
話に出てくる登場人物たちがさぁ…
・・・・・・・・・
まぁ~~、みんなそろってクズばっかりでさ。
ほんとにもう、どうしようもなく素敵じゃないんですよ。
みんな何か醜い部分を抱えている。
男も女も。
老若男女、み~んな、輝いていない。
PTAが推奨するような模範的な人間なんてまったく出てこない。
そんな中で、
主人公のおっさんたちは揃いも揃って、さらに輪をかけたダメ人間、っていう。
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このへんが、なんか、フランス映画っつ~かなぁ~…。
個人的には嫌いじゃないです。
むしろ大好物です。
(正直に人間を描くからこそ、リアルだし、感情移入できる)
誰も素敵じゃないんだけど、
でも、多分、リアルな世界でも、同じだと思うんだよね。
きっと誰でも本当は「素敵じゃない一面」を持ってるはずなんだ。
インスタグラムみたいに「素敵な部分」だけを切り取って見せることができたとしても、そんなのどうせ嘘っぱちだ。
人はみんな、本当は、どこか欠落していて、何かが足りないんでしょうよ。
完璧な人間なんてどこにもいないんだ。
だから、人間をリアルに描こうとすれば、その醜い部分もひっくるめて表現するしかないし、そうしなきゃ嘘になっちゃうと思うんだよね。
そういう意味では、
なんつ~かな~、
「この映画は人間の業の肯定である」
とさえ言えるかもしれない。
かつて、立川談志師匠が
「落語とは人間の業の肯定である」
という名言を残したわけですが、まさに、まさにその感じなんすよね。
人間は皆、すべからくダメ人間である。
しかし、それでいいのである。
ダメ人間でええじゃないか。
・・・・・・的な。
人間賛歌ですよ。
人間賛歌はダメ人間賛歌でもあるのだ。
ダメ人間はダメじゃないのである。
・・・・・・・・・
(何を言ってるんだ?)
今の日本では、相手のダメな部分を見つけて、そこを徹底的にネチネチ攻撃する、っていうのが大流行していますが、
フランスでは、もっとこう…なんていうかなぁ、語弊があるかもしれないけど、日本よりは「やさしい世界」なんだろうな、って思ったよ。(少なくとも映画の中では)
相手と自分の至らなさを許容できるだけの「心の余白」というか「柔軟性」というか「寛大さ」というか、これをザックリひとことで言って「やさしさ」と表現するのが適切かどうかわかりませんが、何か、そんなものを感じましたよ。
映画の中で、人と人が衝突する場面が、頻繁に出てくるんですけどね、誰一人、「いつまでも根に持ってる」人間がいないんです。
口論もする、殴り合いのケンカもする。
でも、それをいつまでも根に持って「あいつが気に入らない」って言ってないんです。
なんかもう、やり合った後は、ケロッとしてる。
たぶん簡単に、軽やかに、許してるんでしょう、相手のことも自分のことも。
これがフランス式なのかどうか分かりませんけど。
そういえば、サッカー日本代表のトルシエ監督やハリルホジッチ監督も、そんな感じだったなぁ…と今、思い出しました。
業の肯定。
人間の良いところも悪いところも認めていこうぜ、許していこうぜ、みたいな。
多くのフランス人には、その感覚が染みついているのかもしれませんね。
日本には「落語」という文化があるのに何故「人間の至らなさ、ふがいなさを許せない」という人々が多いのだろう。特に最近。
なんか不思議ですね。
落語には、与太郎とか、八っつぁんとか、熊さんとか、なんかしょ~もないキャラクターが多数登場するじゃないですか。
頭が悪いし、仕事もできないし、頻繁に間違いを犯す。
でも、それを非難するのではなくて、笑い飛ばしているじゃないですか。
「人間の駄目さ」を笑いに変換することで、ユーモアに変換することで、肯定しようとしてるじゃないですか。
それが、談志師匠の言う
「落語とは業の肯定である」
ってことのような気がするんですが、どうなんでしょう。
違うのかな。
そもそも、
「ダメな人間が許せない!」って言う人は「自分はダメな人間ではない」という前提で語ってるってことじゃないですか。
でもそれ、本当にそうなのかな?
本当にあなたは完全無欠の存在なのかな?って。
これはホントにもうね~、自戒ですよ。
自分自身に言い聞かせなければならない。
でも
できない。
ダメ人間だから。
・・・・・・
あれ?
・・・・・・
これ、無限ループだな…。
・・・・・・
ま、いっか。
(業の肯定)
いつものように豪快に脱線してしまいました。
映画『シンク・オア・スイム』の感想に話を戻します。かなり良い映画でした。しかしラストは…0点かな。
これはもう、好き嫌いの話なんでね、個人差があって当然なんですけど、ワタシ的には、この結末はねぇ~…。
辛口ですけど、0点ですね。
ラストの20分くらいかな、0点。
そこに至るまでの前半、中盤は、85点だったんですけどね。
私の中では、かなりの高得点です。
『シンク・オア・スイム』には、ド派手なカーチェイスも爆破シーンもありません。
美人女優の水着シーンがないどころか、大半は海パン一丁のメタボなおっさんたちが悪戦苦闘している映像だったりします。
それでフランス国内400万人を動員、全世界で興行収入40億円ですからね、すごい映画だと思います。
当然、このラストでスッキリしたとか、救われたとか、プラスの印象を持った方も大勢いると思うんですよね。
これはこれでアリなんだと思います。時代のニーズということなのかもしれないし。
ただ単純に、私の心がひねくれているから、この結末を面白くないと思ってしまった、という可能性も大いにありますしね。
(ちなみに、私の相方の通称・大福さんも「このラストはちょっと…」って不満そうでした)
まぁとにかく、心に深い傷を負った経験のある中高年の負け犬の皆さんにはぜひ、観てもらいたい映画であることは間違いないです。
ラストシーンをどうとらえるか。それはあなた次第ということで。
ちなみに今回紹介したフランス映画『シンク・オア・スイム』の内容は、イギリス映画『フル・モンティ』(不朽の名作)と非常~によく似た構図となっております。
『フル・モンティ』のことは、以前「好きな映画3本紹介」的な企画に乗っかった際に紹介しました。
ワタクシゴトですが、『フル・モンティ』はいまだにVHS(ビデオ)で持っています。昔、生きるのが苦しかった頃、何度も何度も何度も観た映画です。
『シンク・オア・スイム』は『フル・モンティ』に「苦味」と「辛味」を足して、ちょっとだけ「完成度」を引いたような感じですかねぇ~…。
2本ともまだ観ていない方には、まず最初に『シンク・オア・スイム』を観て、そのあとに『フル・モンティ』を観ることをオススメします。(その方がより楽しめるような気がします)