20代のある時、どうしようもなく人生に行き詰って、自転車で旅に出たんだ。
全部捨てて、逃げたかったのかもしれない。
なにもかもリセットしたかったのかもしれない。
東京郊外のボロアパートを引き払って、住所不定無職になって、とりあえず沖縄を目指した。
寒かったからね。暖かい土地へ行きたかった。
最初の三日間くらいは極度の興奮状態で、アドレナリンが出まくっていて、ほとんど寝ないで自転車をこいでいた。(当然のようにひざを故障)
まぁとにかく、冬の東京は道ばたで寝たら死ぬんじゃないかっていうくらい寒かったから、寝たくても寝られなかった、っていうのはあるんだけどね。
旅なんてしたことなかったから、見当違いな荷物ばかり自転車に積んでいた。
沖縄に着いた後のことばかり考えていたので、アロハシャツとか、ビーチサンダルを2足とか。
無駄に重い荷物だった。
もっと暖かい寝袋を買っておくべきだった。
ホームセンターで買った3000円くらいの寝袋じゃ、真冬は眠れません。
人生と同じですね。
荷物は軽い方がいい。
体力や精神力に自信がある人は、たくさん背負えばいいけれど、メンタルが弱い人は、無理してたくさん背負わなくていいんだ。
背負える重さは人それぞれだから。
世間体を気にして、みんなと同じ分量を背負う必要は全然なくてさ。
人生はとてつもない長丁場だから。
自分で勝手に人生を複雑にしない。
— ネコ師匠@自由ネコ (@gattoliberoTW) 2017年2月4日
背負えるだけの荷物で旅を続ける。
日本は山国だなぁとつくづく思い知らされた。
比較的平坦なところには人が住み集落を形成する、ってのはイメージできる。
しかし、集落と集落を繋ぐ道は、ず~~~っと上りと下りの繰り返しだ。
アップ、ダウン、アップ、ダウン。
どうして昔の人は、山の高い部分を削って、低い部分を埋めなかったのだろう?
とか、バカな疑問が湧いてくるくらい、絶望的に平坦じゃない。
ということで、初めて自転車で旅に出る時は、北海道をオススメします。
平坦ですから。
食べ物がおいしい。安い。
旅行者を受け入れる土壌が出来上がっている。
そういえば、結局、日本一周はしませんでした。
途中で「日本一周達成」という肩書欲しさに旅をすることに意義を見いだせなくなったから。
「行ってみたい場所が、そこにあるから行くのだ」という理由の方が自分にとっては自然だった。
行きたいと思っていないなら、行かなくていいな、そういう結論に達したので、結局、日本4分の3周くらいしかしていない。
この中途半端ぶりがいかにも自分らしいという気がしないでもない。
自転車で日本一周するのは、想像以上に簡単ですよ。
旅の途中で、たくさんの旅行者とすれ違った。
実は、自転車で日本一周してる人なんて、うじゃうじゃいるよ。
近所のコンビニまで、自転車で買い物に行ける人ならば、誰にでも日本一周は可能です。
近所のコンビニ、自宅、コンビニ、自宅、コンビニ、自宅・・・
それの繰り返しみたいなもんだからさ。
1日100キロ走らなければならない、というノルマはない。
1日5キロずつでもいいんだよね。
1日300メートルずつの移動でも、続けているうちに日本一周できます。
そう考えれば、誰にでも、できないことはない。
今日は疲れてるから10メートルだけしか進みません、という日があっても実は全然OK。
ただ、
それを何十日、何百回も続けると考えると、気持ちが折れちゃうと思うんだよな。
体力よりも精神力の問題になってくる。
アホみたいに急なつづら折りの峠を汗だくになって越える時、
「自分はいったい、何のためにこんな事をしているのか?」
「何か見返りある?」
「この苦労に見合うだけの、メリットなくね?」
と、自問自答することになる。
考えれば考えるほど、急こう配がなだらかになるわけでもないのに、しょうもないことをあれこれと無駄に考える。
本当はただ黙々と無心になってペダルを踏み込み続ければ、ちゃんと峠の頂まで辿り着くんだけどね。
沖縄で折り返した後は、乞食に間違われることもしばしば。
沖縄では、さとうきびの工場でバイトをしたけど、その後は離島を転々として、ただぼーっと生きている日が多かった。
地元の人にまで「それ以上焼いたら、皮膚がんになるぞ」と言われるくらい真っ黒になった。
もしかすると、日光浴で焼いたうえに、汚れがトッピングされていた可能性も高い。
冬が過ぎると、自転車、バイク、徒歩、ヒッチハイク、みんな、今度は北海道を目指して旅立って行くんだよね。
渡り鳥のように。
「では、今度は北海道で会いましょう」って言って。
そうやって、何年も、北海道と沖縄を往復している廃人?も結構いたね。
私ものらりくらりと北上を始めたんだけど、ある時、こんなことがあった。
自転車で走っていると、向こうから、明らかに金持ってそうな、和服のおばあさんが歩いてくるのが見えたんだ。
高級そうな着物に身を包んでいる。
背筋がスッと伸びていて姿勢が良い。
育ちの良さがオーラとして漂っている。
THE・気品。
肉体的にはシュッとした叶姉妹が80歳になったところをイメージしていただければ分かり易いかと思います。(逆に分かりにくい)
すれ違う時、この貴婦人が、ニッコリとこちらに微笑んできた。
こちらも笑顔で挨拶する。
そうしたら、ババア、
穏やかな菩薩のような表情を浮かべながら、財布をとり出して
「いくら欲しいの?」
って言ったんだよね。
完全に乞食だと思われてる。
それで
「いやいやいや、僕は、カネをめぐんでほしかったから笑顔であいさつしたわけじゃないんです」
って説明してさ。
でもねぇ……。
今になって思うよ。
「5000円、欲しいです」
って言えばよかったな、って。
一度だけ、もうどうしようもなく、自転車の旅を投げ出したくなったことがあった。
沖縄まで辿り着く前だったと思う。
一度、めちゃめちゃ猛烈に
「自転車の旅を辞めたい!」
って思ったことがある。
「朝起きたら、自転車が盗まれていればいいのに!」
って思うくらい、もう途中で投げ出したくなった時があった。
普通に電車で移動したくなった。
その方が楽だし、速いからさ。
なんかもう、全てがアホらしいというか。
何これ?何やってんの?バカなの?
って感じで。
でね、
どうしてそんなふうに思ったのかっていうと、めちゃめちゃ疲れてたんだよね、その時。
自分の限界を超えて、ヘトヘトに疲れてたわけ。
自分のキャパシティを把握してなかった。
まだ、地図と照らし合わせて実際の山の険しさを見抜く目が無かったし、無駄な荷物もたくさん持ってたし、ペース配分とかも失敗してたんだと思う。
完全にエネルギーゼロの状態になったけど、その日の寝場所が見つかりそうもない、という状態だったんだよね。
それでもう、悲観的な、ネガティブな事ばかり考えちゃうようになって。
自転車、盗まれろ!
って思ったからね、ホント。
一時の気の迷いですよ。
でもね、その時、自分の中のもう一人の「リトル・俺」がさ、結構、冷静に、客観的にその状況を観てるワケ。
「今は、限界を超えて疲労してるだけだ。明日になれば復活するのは間違いない」
って。
今は一時的に、体力的な限界を超えているから平常心を失っているが、十分な休息をとれば心身共に確実に回復する。何一つ問題は無い。
っていう確信があるわけですよ、「リトル・俺」は。
その時、どんな場所で寝たのかは全く覚えていないんだけど、翌朝、朝日を浴びながら
「うおぉぉぉぉ!完全復活じゃ~~~!!!!」
ってなったのは覚えている。
普段以上に
「新しい朝が来た!希望の朝だ!」って感じたもんね。
多分ね、人生もそうだと思うんですよ。自分のキャパを超えることをしたら自爆します。
「キャパシティ」すなわち「自分が抱え込める容量」をオーバーしちゃうと、どこかに弊害が来ますよ。
体調がおかしくなったり、怪我をしたり、メンタルをやられたり、病気になったり。
そう考えるとさ、メンタルをやられた時に、
情緒不安定になった時に、
「こういうときこそ、頑張れ、アタシ!」
っていうの、完全に間違ってんじゃね?
ストレスを感じてる時点で、もうキャパ超えてるんだからさ。
そのうえに頑張りをトッピングしてどうすんのよ。
あ~つらいわ~。きついわ~。
無理だわ~。泣きたいわ~。
「でも頑張らなくっちゃ!」
っていう人、よく見かけるんですよ、実際。
いやいやいや、超えたな、キャパ超えてるな、ヤバいな、って思ったら、絶対に休んだ方がいいから。
おそらく、日本人くらいじゃないのか。
過労死なんてまさにそれだよね。
休んだら、「弱虫」とか、「意気地なし」とか、「無能」とか、「人間のクズ」とか、「負け犬」とか、「人生の敗北者」とか「社会不適合者」とか、そういう言葉で罵倒してくる連中はいると思うけどさ。
そんなクソどもは、ガン無視でOKよ。
「うるせぇよボケ」って思って、あとは無視!
グダグダ言ってくる連中は、どうせ何の責任も取ってくれないんだから。
辛いのは自分自身なんだから、他人の顔色を伺ってないで、自分自身の本当の気持ちを、もっと大事にした方がいいよ。
他人は関係ないから。
「みんなが50キロの荷物を担いで旅をしてるから」
という理由で、自分も50キロの荷物を背負い込む必要はないんだから。
100キロ持てる人もいれば、10キロしか持てない人もいる。
ちゃんと自分自身と向き合って、自分のキャパシティを知っておくことです。
見栄を張らずに、正直に生きることです。
くだらないプライドなんて余計な荷物は、さっさと捨ててしまえばいい。
荷物が軽いほど、旅は軽やかになる。
人生は長い長い旅のようなものだ。
自分のペースを守ること。
自分の歩幅で歩くこと。
スタートもゴールも、設定は自分次第だ。
雑誌やネットやテレビに惑わされずに、自分の人生を生きよう。
自転車で旅をしたくなった若人へのアドバイスで締めくくろう。
「お前ら、交通ルールは守れよ!」
グッドラック!
(何なんだ、この終わり方…)