サッカーのドイツ代表メスト・エジル選手がドイツ代表からの引退を表明した件で話題になっています。
「トルコ系移民の私は差別されている!もうドイツ代表でプレーしたくない!」というのが、その大きな理由のようで。
一体何があったんでしょうか?
エジルは悪くない!悪いのは、エジルを差別したドイツサッカー連盟のグリンデル会長だ!みたいな、簡単な話ではないような…。
エジルのファンは当然、エジルの言い分を100%信じますし、そうなってくると、名指しで批判されたドイツサッカー連盟(DFB)のラインハルト・グリンデル会長が人種差別主義者であり、諸悪の根源、みたいなことになってくるとは思います。
……が。
事はそんなに簡単な話なんでしょうか。
私の中のジャーナリズム精神が今、重い腰を上げようとしています。
眠れる獅子、見参!
※引用元によってドイツサッカー連盟だったりドイツサッカー協会だったり、表記が違います。予めご了承ください。
ちょっと時間をさかのぼってみましょう。そもそも、エジルは何をやらかしたんだ?
今年の五月に、こんなことがあったんですね。
普段ニュースとか全然見ないんで全く知りませんでした。
ドイツのサッカー選手が巻き起こした「大スキャンダル」その善悪(川口 マーン 惠美) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
「大スキャンダル」勃発
ドイツ出身のプロサッカー選手であるメスト・エジル(Mesut Özil)とイルカイ・ギュンドアン(İlkay Gündoğan)とジェンク・トスン(Cenk Tosun)の3人が、5月14日、ロンドンのホテルでトルコのエルドアン大統領と面会し、それぞれサイン入りのユニフォームTシャツを大統領に贈った。(略)
ギュンドアンはご丁寧にもTシャツに、「私の大統領へ尊敬を込めて」と書いていた。「大スキャンダル」の勃発である!
ギュンドアン、やっちまいましたね。
「私の大統領へ」ってのは、ちょっとサービスしすぎでしょう。
この画像が表沙汰になることはないと考えていたのかも知れません。詳しいことはよく知りませんが…。
ギュンドアンは、ドイツ代表でプレーしていますが、国籍としては、ドイツとトルコ、両方を持っているらしいですね。そういう意味では、ドイツ人だけど、トルコの大統領に対して「私の大統領」と言っちゃってもいいような気がしますが…。
実を言うと、「問題のキモ」は、そこじゃないんだよな~。
ここを勘違いしちゃうと、単なる人種差別問題に話がすり替わっちゃうと思うんですよね。
問題は、こういうことなんよね。
何故、トルコのエルドアン大統領とのツーショットが問題なのか?っていう部分ね。
非難の内容は、ひとことで言うなら、「民主主義を足で踏みにじっている独裁者と、仲良く写真を撮るとは何事か!?」「ナショナルチームのメンバーは、ドイツに忠誠を誓うべき」ということらしい。
ドイツ政府の移民統合問題委員であるヴィットマン-マウツは、これは「エルドアンに対する歪んだ最敬礼」で、「サッカー協会が掲げるダイバーシティ(多様・多彩・寛容)に反する」と非難。
ドイツ議会のスポーツ委員会の委員長フライタークは、「このような行動は、私たちの価値観にもドイツのスポーツの基本精神にも合致しない」。
ドイツサッカー協会総裁グリンデル氏は、サッカー選手たちが反民主主義者であるエルドアンの選挙戦の策動に利用されたと、ひときわ激しい非難を展開。「選手たちは、自分たちが間違いを犯したということがわかっていると思う」。
ようするにだ。
トルコ人だからどうこうって話じゃなくて。
反民主主義者、もっと言っちゃうと独裁政権を築こうとしている「ほぼ独裁者」と仲良く写真を撮るとは何事か!
ってことのようなんですね。
この主張自体の中には、人種差別的な意味合いは含まれていないと思うんですよ。
(もちろん、人種差別主義者が、こういった発言を利用する可能性はありますけど)
たとえば、それなりにやり手のドイツのメルケル首相でさえ、こう言及しています。
メルケル首相までが、彼らの行動は「疑問を呈し、誤解を招く状況であった」とコメントした。
あのメルケル首相が、エジルらに対して、人種差別的な感情を持って、この発言をしたと思いますか?そんな浅はかで、短絡的で薄っぺらい、ツッコミどころ満載のコメントを残すでしょうか?
どこかの国のアホな政治家とは違いますよ?メルケルですよ?
ハッキリ言いましょう。
おそらく、メルケルの「(エジルらの行動は)疑問を呈し、誤解を招く状況であった」という発言は、人種差別的な意味合いを含んでおりませんよ。
民主主義か、反民主主義か、って話なんですよ。
エルドアン大統領がトルコ人だろうとアフリカ人だろうとアジア人だろうと関係なくて、彼が独裁政権を握ろうとしているかどうか?が問題なわけですね。
エジルやギュンドアンらが批判されたのは、人種どうこうの話じゃなくて、政治の話だった部分があるわけです。
おそらく、そこに人種差別主義者が便乗して、一緒になって移民叩きみたいな行為をトッピングしてたおかげで、話がぼやけてきちゃってるわけですよ。
話がズレて来てる感がある。
例えば、日本の本田選手や香川選手が、ポルポト的な独裁者と一緒に、にこやかにツーショット写真を撮ってたのが発覚したらどうでしょうか。
本田や香川の国籍どうこうではなく、生まれどうこうではなく、人種どうこうではなく、問題になりますよね?
その行為を批判する人は現れるでしょうが、それは本田の生まれに対する人種差別的思想に根差した批判ではない。
単純に「独裁者と仲良くすんなよ!」という意味あいですよ。
これに対して、バッシングを受けた側が、
「あ~!人種差別された!オレ今、人種差別でバッシングされてる!納得いかない!ドイツ代表でプレーするの辞めるわ!」
っていう本人の思い込みによる発言があったとしたら、「イヤ、そうじゃない。そういうことじゃないんだよ」って話になってくるじゃないですか。
別の記事から。
エルドアン大統領は反政府運動への厳しい弾圧やインターネットの閲覧制限の実施など、強権的な政治手法から欧米社会を中心に「独裁的」との批判も強いことから、ドイツサッカー連盟(DFB)のラインハルト・グリンデル会長はツイッターにて、今回の表敬訪問について以下のように見解を示している。
「我々は移民をルーツとする選手たちをリスペクトし、彼らの特殊な事情についても考慮している。だが、サッカーとドイツサッカー連盟は、エルドアン氏が十分に配慮していない価値を支持している。したがって、我々の代表選手が彼の政治活動に利用されかねない状況というのは、好ましいものではない」
エルドアン大統領は、自分と敵対する存在に対して、激しい弾圧を繰り返し、インターネットの閲覧を規制する。
そういう政治家なんですね。
ある意味「民主主義者にとって危険な存在」ということです。
問題は、問題のキモはそこなんですよね。
もう一度引用しますよ。グリンデル会長の発言。
ドイツサッカー協会総裁グリンデル氏は、サッカー選手たちが反民主主義者であるエルドアンの選挙戦の策動に利用されたと、ひときわ激しい非難を展開。「選手たちは、自分たちが間違いを犯したということがわかっていると思う」
もう一発、グリンデル会長。
「我々は移民をルーツとする選手たちをリスペクトし、彼らの特殊な事情についても考慮している。だが、サッカーとドイツサッカー連盟は、エルドアン氏が十分に配慮していない価値を支持している。したがって、我々の代表選手が彼の政治活動に利用されかねない状況というのは、好ましいものではない」
これに対して、エジルは「人種差別主義者のグリンデル許せん!」って怒ってる感じで。
「ん?これって、人種差別的発言なのかな?」って感じる部分、ありませんか?
まぁねぇ、グリンデル会長にも、裏表あるでしょう、実は差別的な思想の持ち主なのかも知れない。そのへんはニュースだけではよく分かりませんが…。
以上を踏まえたうえで、今度はエジルの言い分を聞いてみよう。
エジルが代表を引退!独サッカー連盟の会長を猛批判「勝てばドイツ人だが負ければ移民」 | Goal.com
アーセナルに所属するメスト・エジル(29)は22日、ドイツ代表からの引退を表明した。その主な理由としてドイツサッカー連盟(DFB)のラインハルト・グリンデル会長による扱いを挙げている。
なるほど、やはりエジルの怒りの矛先はグリンデル会長ということのようです。
ちょっと長くなりますが、エジルの激白をどうぞ。(削れなかった…)
エジルは、以前政治家として移民に対して差別的な発言をしたことで知られるグリンデル会長の大会後のインタビューでの発言に失望を覚えたようだ。声明では「彼は僕に対して公に自分の行動を説明すべきだと話し、ロシアでのチームの成績を僕のせいにした」と非難すると、「僕はもう、彼の無能さ、仕事をしっかりとこなせていない人をかばうためのスケープゴートでいたくない」とも強調した。
「あの写真を撮ったあと、彼は僕をチームから外したがっていたことは知っている。何も考えず、誰にも相談せずにツイッターで自分の見解を伝えていたのだからね。ヨアヒム・レーブとオリバー・ビアホフ(チームマネージャー)が僕のことをサポートしてくれたが、グリンデルの目には、僕たちが勝てば僕はドイツ人に、負ければ移民に映るんだ。それは、ドイツで納税しても、ドイツの学校に寄付しても、ドイツのチームとともに2014年にW杯を勝ち取っても、僕はいまだに社会に受け入れられていないからだ」
エジルはさらに自身に対する人種差別的な言動に言及し、政治家やファンの発言などを引用している。そして、次のように続けた。
「DFBや他の大勢からの扱いにより、ドイツ代表のユニフォームを着ることを望まなくなった。歓迎されていないという気持ちがあり、僕が2009年の代表デビュー以来何を成し遂げたのかが忘れられているような気さえする。人種差別的な思考の背景を持つ人物が、2つの祖国を持つプレーヤーたちが多数属する世界最大のサッカー連盟のトップを務めることは許されてはいけない。そういう考え方は、彼らが(組織として)代表する選手たちにふさわしくない」
「僕はプライドを持って、刺激を受けながらドイツのユニフォームを着ていたが、今はそうではなくなった。僕は今まで常にチームメイトやコーチ陣、ドイツの良い人々のためにすべてを尽くしてきたので、この決断は非常に難しかった。だが、DFBの幹部の方々が、僕のルーツを軽蔑しながら僕のことを利己的な目的で政治プロパガンダに利用するというのなら、もう我慢はできない。僕はそのためにサッカーをプレーしているわけではないし、黙って引き下がることはない。人種差別は絶対に受け入れられてはいけない」
エジル、感情的になっていますね。かなりエキサイトしている模様。
グリンデル会長に対して
「彼は僕に対して公に自分の行動を説明すべきだと話し、ロシアでのチームの成績を僕のせいにした」
「僕はもう、彼の無能さ、仕事をしっかりとこなせていない人をかばうためのスケープゴートでいたくない」
「グリンデルの目には、僕たちが勝てば僕はドイツ人に、負ければ移民に映るんだ」
なんかもう、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い的な感じもあるのかないのか。
グリンデルのことが心底大嫌い「お前の母ちゃん出ベソ」的な。
激怒しまくっているうちに、アチコチ飛び火してるというか。
「あー腹立つ!そういえばあんな腹立つ出来事もあったよ!」
みたいな
「思い出し怒り」みたいな様相も無きにしも非ず。
これに関しては、みなさん心当たりあると思います。
めちゃめちゃ激怒してるうちに、「そういえば、アレもあった、コレもあった!」みたいに、過去のムカつくエピソードをイモづる式に思い出しちゃって、なおさら激怒しちゃうパターンね。
分かる。分かるぞ、エジル。その怒り。
「ドイツで納税しても、ドイツの学校に寄付しても、ドイツのチームとともに2014年にW杯を勝ち取っても、僕はいまだに社会に受け入れられていないからだ」
これはもう、グリンデルは直接関係ないな。
でもまぁ、とにかく、エジル的には
「グリンデルが会長を務めているドイツサッカー協会なんて、ナンボのもんじゃい!」
という感じでしょうかね。
グリンデル憎けりゃドイツサッカー協会まで憎い。
ということで引退します。
・・・・・・的な?
もう一回、引用。
「僕はプライドを持って、刺激を受けながらドイツのユニフォームを着ていたが、今はそうではなくなった。僕は今まで常にチームメイトやコーチ陣、ドイツの良い人々のためにすべてを尽くしてきたので、この決断は非常に難しかった。
だが、DFB(ドイツサッカー協会)の幹部の方々が、僕のルーツを軽蔑しながら僕のことを利己的な目的で政治プロパガンダに利用するというのなら、もう我慢はできない。僕はそのためにサッカーをプレーしているわけではないし、黙って引き下がることはない。人種差別は絶対に受け入れられてはいけない」
う~~む……。
エジルよ、それでいいのか…?
結局ね、どうしてこんなにもエジルがグリンデル会長に対して激怒しているのか?っていうと、グリンデルは過去に、人種差別的な発言をしているらしいんだよね。
エジルいわく。
「ラインハルト・グリンデル、私はあなたの行動に失望しているが、驚いてはない。なぜなら、あなたは国会議員だった2004年に『多文化主義は神話に過ぎず、大嘘だ』と言った。そして、二重国籍を認める法案に反対票を投じた。決して許されないし、忘れることはない」
あえて「元・人種差別主義者」とでもしておきましょうか。
まぁ、おそらくですけど、グリンデルは、改心はしていなくてさ。
今でも心の中では、移民を快く思っていないんでしょうね。
さすがに、公の場で差別発言はしなくなったのかも知れないけど、その心の根底には「移民ムカつく!」っていう気持ちを抱いているんでしょう。
だからエジルは、めっちゃ怒ってるんでしょうね。
それにしても、そういう人がドイツサッカー協会の会長になっちゃうんですねぇ…。
う~~む……。
おそらく、エジルは過去に、何度も何度も、ドイツ国内で人種差別を受けてきたと思う。
勝手な憶測ですけど、おそらくエジルは、過去に数えきれないくらい、トルコ系移民の子だということで、差別を受けてきたと思います。
いやがらせとか、意地悪とか、小さなものから大きなものまで。
何度も屈辱を味わってきたことでしょう。
サッカー選手としてスーパースターになった今でも、人種のことで傷つけられることがあるんだとすれば、無名の少年時代なら、なおさらの事です。
この苦しみは、エジルにしか分からない。
エジルがどれだけ傷ついてきたか。
どれだけ辛く、悲しかったか。
そして、
どれだけ怒りや失望を味わったか。
我々には想像も出来ない。
エジルはずっと、溜め込んできたんだと思います。
ずっと、我慢してきた。こらえてきた。
今回のトルコ大統領とのツーショット写真に端を発する騒動は、その引き金にすぎなくて。
ついにエジルの中で、何かが限界をむかえた、ということなんでしょう。
残念な話ですが、人種差別の問題は、今でも世界中で問題になっています。
なかなかねぇ…。
人間ってのは、人類ってのは、幼いもんです。
ガキです。発展途上です。
いつまでもいがみ合って。罵り合って。
一応「先進国」のドイツでも、相変わらず、こんな調子ですからねぇ…。
ザ・ブルーハーツの歌「TRAIN-TRAIN」で
弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく
って歌詞がありますけど……。
なかなかねぇ……。
難しいもんです。